井戸敏三兵庫県知事

 賀川豊彦先生が神戸で活動を開始されて、2009年で100年を迎えます。これを記念して「賀川豊彦献身100年記念事業」が実施されます。
 若い情熱をもって、非常に厳しい状況にあった地域に飛び込まれた先生の思いを振り返ることを通して、「今の社会に欠けているもの」、「若者にとって大切なもの」が見えてくるのではないでしょうか。

 現代はお金が基準とされ、多ければ多いほど成功者として評価される風潮があります。しかし、賀川先生の活動は正反対です。お金はないけれども、人々の気持ちや理解、協力といったことを行動の基準にされました。それだけに、先生の業績をたどることにより、貴重な教訓が得られると思っています。

 阪神・淡路大震災から13年が経過しようとしています。その約70年前の関東大震災において、賀川先生は最も被害の大きかった東京・本所で、さまざまな救済活動を展開されました。その中で、震災博物館をつくるべきだと強く言われています。災害は繰り返し起きるだけに、それへの備えや地域の連体をつくりあげ、災害対策を社会のしくみとして構築していくべきだと主張されていたと伺い、私は非常に感動しました。

 私たちは、先生の先進的なアイデアにならい、阪神・淡路大震災の後に「人と防災未来センター」を設置しました。このセンターは博物館機能に加え、調査研究、災害対策の専門家育成、被災地への情報提供・助言などの機能をもって活動しています。神戸の地震を予見されていたわけではないのでしょうが、先生が処方箋を書いてくださったような気がします。

 このたびの100年記念事業は、先達の歩みに学び、私たちが今の世の中に必要なもの、あり方をもう一度考える機会となるに違いありません。そして、賀川豊彦先生の夢や高い志、熱い思いが、多くの人々に伝わり、互いに支え合い、助け合う温かい心の輪が大きく広がっていくことを願っています。
 ともに力を合わせ、だれもが安全で安心して、いきいきと暮らせる「元気な兵庫」をつくっていきましょう。

   偉大なる 業績偲び 友輩(ともがら)が
     誓い新たに 百年を期す